こどもの権利条例を「つくって終わり」にしないために
―南砺市の取組から学んだこと―

当日いただいた「南砺市こどもの権利条例ガイドブック」と説明資料
9月6日、第65回富山県母親大会の分科会「南砺市に学ぶ『こどもの権利条例』」に参加し、南砺市総合政策部こども課から、条例制定までの経緯と、制定後の具体的な取組についてお話を伺いました。
上市町でも「上市町こどもの権利条例」が令和7年10月1日に施行され、まもなく1年を迎えます。
条例を制定することがゴールではなく、その理念を実際の施策や、こどもたちの日常にどうつなげていくのか。
その意味でも、先行して条例を施行し、さまざまな取組を進めている南砺市のお話は、とても参考になるものでした。
条例をつくる「過程」にも、こどもや市民が参加
南砺市では、令和3年度から条例づくりを本格的にスタートし、令和4年12月に「南砺市こどもの権利条例」を制定、令和5年4月1日に施行しました。
印象的だったのは、行政だけで条例案をつくったのではなく、「こども部会」「人づくり部会」「環境づくり部会」を設け、さまざまな立場の人が参加して検討を重ねたことです。
こども部会では、こどもたち自身が「こどもの権利」を学び、自分たちの生活を振り返りながら、こどもが幸せに暮らすために何が必要なのかを話し合いました。
条例が目指すのは、
「こどもも大人も、ともに幸せに暮らせるまち」です。
こどもだけを対象にするのではなく、こどもの権利を大切にすることが、こどもと関わる大人や地域全体の幸せにもつながるという考え方が根底にあります。
「条例ができました」で終わらない
今回、特に参考になったのが、条例制定後の取組です。
南砺市では「南砺市こどもの権利推進に関するアクションプラン」を策定し、
「こどもの権利の周知啓発と理解促進」
「こどもの意見表明・参加の促進」
「こどもの権利保障の実現に向けた環境づくり」
「こどもの権利侵害への対応」
という4つの方向性を定め、それぞれに指標を設定しています。
さらに、令和7年3月に策定された「南砺市こども計画」には、このアクションプランも内包され、こども・子育て施策全体の中で「こどもの権利」の視点を取り入れながら取組が進められています。
条例 → アクションプラン → 具体的な事業 → 検証
と、条例の理念を実際の行政施策につなげ、取組を検証していく仕組みがつくられている点が、とても参考になりました。
歌や動画も使って「こどもの権利」を身近に
「こどもの権利」と聞くと、少し難しい印象を持つ方もいるかもしれません。
南砺市では、こどもの権利を表すキャラクターを活用した啓発や、こどもの権利を伝えるオリジナルソング「ぼくらはみんな」の制作など、こどもにも親しみやすい方法で周知を進めています。
また、こどもの権利に関する学習教材の作成、児童館でのこども主体の活動、こども・若者から意見を聴く取組、CAPワークショップなど、さまざまな場面でこどもの権利を学び、実践につなげる取組が進められています。
さらに、南砺市では「幼児期からの生きる学び」として、幼児期からの包括的セクシュアリティ教育にも取り組んでいます。
条例の文章を読んでもらうだけではなく、
こどもにも大人にも、どうすれば「こどもの権利」を身近なものとして伝えられるのか。
さまざまな工夫を重ねていることが印象に残りました。
災害時にも「こどもの権利」という視点を
もう一つ、とても興味深かったのが防災です。
研修では、「災害時における子どもにやさしい空間(CFS)」や、緊急時におけるこどもへの支援についても紹介されました。
質疑応答では、不登校のこどもに関わっている参加者から、学校そのものに強い拒否感があるこどもにとって、学校が指定避難所になっていても避難することが難しい場合がある、という問題提起もありました。
これは、防災士としてもとても考えさせられる話でした。
「避難所を用意しているから大丈夫」ではなく、そこへ行くことが難しいこどもはいないか。
避難所を整備するだけではなく、さまざまな事情を抱えるこどもの立場から防災を考える視点も必要なのだと思います。
条例があっても、大人の意識はすぐには変わらない
私からは、世代によって「こどもの権利」に対する受け止め方に違いがあるのではないかと質問しました。
上の世代では、今では問題となるような大人からの強い言葉や関わり方が、当たり前とされていた時代もあります。
南砺市でも、上の世代への理解を広げていくことは、当初から課題として感じていたとのことでした。
民生委員への説明や出前講座など、大人に向けた啓発も続けており、現在では民生委員の会合でも「こどもの権利」が話題になることがあるそうです。
また、放課後児童クラブについても、研修などを通して支援員にこどもの権利を学んでもらっている一方、実際の現場では「危ない」「ダメ」といった言葉が飛び交う場面もあるという率直なお話がありました。
条例を制定したからといって、その日から大人の関わり方がすべて変わるわけではありません。
だからこそ、一度周知して終わりではなく、繰り返し学ぶ機会をつくり、それを日常の声かけや関わり方につなげていくことが大切なのだと思います。
「すべてのこども」の声を、本当に聴けているか
質疑応答では、障がいのあるこどもへの対応についても質問がありました。
医療的ケアが必要なこどもの受入れ体制について説明がありましたが、私自身は、障がいなどによって自分の思いを言葉で伝えることが難しいこどもの意見を、どのように聴き、意見表明や参加につなげていくのかという点も、今後さらに考えていく必要があると感じました。
これは南砺市だけの課題ではありません。
「こどもの意見を聴く」と言ったとき、自分から声を上げられるこどもの意見だけを聴いて終わっていないか。
障がいのあるこども、不登校などで既存の場に参加しにくいこども、さまざまな事情から声を上げにくいこども――。
「すべてのこども」と言うときに、本当にすべてのこどもを想定できているのか。
これは、上市町でも大切にしていきたい視点です。
情報を「出す」だけでなく「届く」ことも大切
今回、もう一つ印象に残ったやり取りがありました。
南砺市に6年前に移住し、現在子育て中の参加者から、
「今日のお話を聞いて、南砺市がこんなにたくさんの取組をしていることを初めて知った」
という発言がありました。
南砺市でも、さまざまな方法で情報発信を行っています。
それでも、必要な人にすべての情報が届くとは限りません。
これは私自身、議員活動の中でも感じていることです。
「ホームページに掲載してある」ことと、「市民・町民に伝わっている」ことは同じではありません。
行政からの情報提供についても、何を発信するかだけではなく、誰に、どのような方法なら届くのかまで考える必要があると改めて感じました。
上市町でも「つくって終わり」にしないために
今回、南砺市のお話を聞いて改めて感じたのは、こどもの権利条例は、制定することがゴールではなく、そこからがスタートだということです。
上市町では「上市町こどもの権利条例」が令和7年10月1日に施行され、まもなく1年を迎えます。
条例では、こどもの意見表明や社会参加の機会の確保をはじめ、虐待や体罰等の防止、いじめへの対応など、こどもの権利を守るための基本的な施策が定められています。
大切なのは、それらを条例の中の言葉だけにしないことだと思います。
学校、保育、放課後児童クラブ、地域、子育て支援、防災など、こどもが生活するさまざまな場面に、条例の理念をどう落とし込んでいくのか。
こども自身が、
「自分の意見を言っていい」
「自分は大切にされている」
と実感できているのか。
そして、声を上げにくいこどもの思いまで、本当に受け止められているのか。
条例が施行されてから約1年。
これからは、条例が「ある」ことだけではなく、その理念が実際の施策や、こどもたちの日常につながっているのかを見ていくことが、より大切になってくると思います。
私自身も議員として、こどもの意見を聴く機会がどのようにつくられているのか、その意見が実際の施策にどう生かされているのかも含め、継続して見ていきたいと思います。
条例を「つくって終わり」にせず、こどもの権利が日常の中で当たり前に大切にされるまちへ。
今回学んだ南砺市の取組も参考にしながら、上市町で何ができるのか、これからも考え、取り組んでいきたいと思います。